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二人きりの静かな午後
あんみの家に入った瞬間、ゆうすけは軽い緊張感を覚えた。彼女と二人で家にいるのは、今日が初めてだった。これまで何度も一緒に遊びに行ったけれど、こうしてプライベートな空間で二人きりになると、少し勝手が違う気がして落ち着かない。
「ゆっくりしててね、飲み物持ってくるから。」
あんみはにこやかにそう言って、キッチンへと向かっていった。ゆうすけは彼女の背中を見送りながら、リビングのソファに腰を下ろす。目の前に広がるあんみの家の様子は、彼女らしく温かみがあって、彼にとっても居心地が良かった。
やがて、あんみが冷たいジュースを二人分持って戻ってきた。カラフルなグラスに入ったそれをテーブルに置きながら、「どうぞ」と優しく微笑む。その笑顔に、ゆうすけは思わず見とれてしまった。
「ありがとう。すごくおいしそうだね。」
ぎこちなく礼を言いながら、グラスを手に取ると、冷たいジュースが喉を潤し、ほんの少し緊張が解けたように感じた。二人で何気ない話をしながら、ゆったりとした時間が流れていく。
あんみは少し疲れていたのか、だんだんと瞼が重くなってきた様子だった。彼女はソファに身を預けるようにして、ゆうすけの隣で小さくあくびをすると、恥ずかしそうに笑った。
「ごめんね、ちょっと眠くなっちゃった。」
その言葉と同時に、あんみはゆっくりと横になり、ソファの肘掛けに頭を乗せて目を閉じた。まるで子どものように、安心しきった表情で微かに寝息を立て始めた。
ゆうすけはその姿を見て、どうしていいかわからず、頭を掻きながら目のやり場に困った。彼女の寝顔を見つめるのはどこか気が引けるけれど、無理に目を逸らすのも不自然に感じて、結局彼は彼女を盗み見るようにして視線をそらした。
「あんみ……寝ちゃったのか。」
つぶやくようにそう言った彼の声は、まるで自分に言い聞かせるかのようだった。彼女が無防備に眠っている姿は、普段の元気な姿とはまた違っていて、彼の心をくすぐった。ふと彼女の頬に視線を向けると、ほんのりと赤みを帯びていて、優しい寝顔がよりいっそう愛おしく感じられる。
心の中で「見ちゃだめだ」と自制しようとするものの、つい彼女の寝顔に目が行ってしまう。長い睫毛、すっと通った鼻筋、少し開いた唇……。彼女の寝息がかすかに聞こえてくるたびに、ゆうすけの胸は静かに、しかし確かに高鳴り続けていた。
「なんでこんなにドキドキするんだろう……。」
彼は自分の胸に手を当てながら、心の中でつぶやいた。彼女が隣で寝ているだけなのに、鼓動が速くなっていくのを感じる。視界に映るのは、あんみの柔らかな髪や、ほんのりと上気した頬、規則正しく上下する肩。そんな何気ない彼女の姿が、今の彼にとっては特別で、思わず目が離せなくなってしまう。
「もっと近くで見たい……でも、だめだよな。」
彼女の寝顔を間近で見たいという思いが一瞬頭をよぎり、慌ててその考えを振り払う。自分の中で理性が働き、「それは失礼だ」と思いながらも、心のどこかで「でも少しだけなら……」と、あんみの寝顔をもう少ししっかりと見たいという気持ちも湧いてくる。
ゆうすけはそっと体を彼女の方に向け、なるべく音を立てないように身を乗り出した。彼女の寝顔をまじまじと見ることはなかったけれど、少しだけ近づいたことで、彼女の微かな寝息や、ほのかに香るシャンプーの匂いを感じ取ることができた。
「可愛いな……。」
その一言が、自然と彼の口をついて出た。あんみは普段から無邪気で元気いっぱいな子だけど、こうして静かに眠っている姿はまた別の魅力があった。無防備で、彼にすべてを委ねているかのような姿に、胸が締め付けられるような感覚を覚える。
彼女がこんなにも安心しきった顔で自分の隣に眠っている。その事実が、彼の心を温かく包み込んでいく。同時に、自分は彼女にとってそれだけ信頼されているんだと実感し、嬉しさと誇らしさがこみ上げてきた。
「俺、何してんだろう……。」
彼は小さく苦笑しながら、あんみの寝顔から視線をそらして天井を見上げた。彼女のことをこんなにじっと見つめているなんて、まるでストーカーみたいじゃないか。そう自嘲するように思いながらも、再び彼女の方に目を戻してしまう自分がいた。
「あんみ、起きたらなんて言おうかな……。」
彼女が目を覚ましたとき、何か話題を見つけなければならないのに、今はただ彼女の寝顔を見つめているだけで、頭がいっぱいになっていた。自分が彼女にこれほど惹かれていることを改めて感じ、彼はまた少し頬が熱くなるのを感じた。
「本当に、かわいいな……。」
その言葉は、もう一度心の中で繰り返した。彼女がどれだけ愛おしい存在であるかを再確認しながら、ゆうすけは彼女の寝顔をそっと見守り続けた。
あんみがそっと目を開け、彼に「どうしたの?」と聞いてきたとき、彼はドギマギしながらも、笑顔で答えるだろう。彼女が隣にいてくれるだけで、こんなにも心が満たされるなんて、ゆうすけは今まで知らなかった。
彼女が安心して眠る姿を見つめながら、彼はただ静かにその瞬間をかみしめていた。彼女を守りたい、彼女の笑顔をずっと見ていたい。その思いが、ゆうすけの胸の中で、ますます強くなっていった。